考えてみると、私がこれまでに訪れた中で最も印象に残ったのは「赤坂おぎ乃」だった。2020年のオープンから瞬く間に名店の仲間入りを果たし、その評判を聞きつけて訪れたのが最初だった。その日は特別な貸切会に招待され、溜池山王から歩いて赤坂駅のちょっと先の店に足を運んだ。 店内はたったの7席しかないストレートカウンター。目の前で荻野聡士氏が一皿一皿を丁寧に作り上げていく様子は圧巻だった。そして、その料理の数々…。藁で焼いた赤貝と細魚の旬菜のお浸し、天草の黄金鱧、シャインマスカットの豆腐白和えなど、どれもこれも絶品。 食事が終わった後には、確信があった。これが私の人生での最後の晩餐だとしても、後悔はしないだろうと。